西澤 篤志

現在、自然科学研究機構 国立天文台 光赤外研究部 重力波プロジェクト推進室 受託院生として 国立天文台で研究をしています。

・重力波

重力波とは、1916年に A.Einstein によって提唱された一般相対性理論によ りその存在が予言されている、光速で伝播する時空の歪みである。一般相対性理 論はこれまでに太陽系内での様々な実験によって検証されているが、重力波の直 接的観測は未だなされていない。しかし、連星パルサーの公転周期の変化は、重 力波の存在を仮定した場合の理論的予言と良い精度で一致しており、重力波の間 接的な証拠であると考えられている。

重力波は様々な天体から放出されると考えられており、超新星爆発や中性子 星の連星、大質量・中間質量ブラックホールの連星、白色矮星の連星などがある。 また、初期宇宙においてもインフレーションや宇宙ひも、宇宙の相転移・再加熱 により生成されると考えられている。現在その直接的検出に向けて世界中で観測 実験が進められている。

・重力波の観測から分かること

重力波観測は一般相対論の検証という意味でも大きな意味を持つが、様々な 天体現象や初期宇宙を理解する上でも非常に重要である。重力相互作用は電磁相 互作用に比べて非常に弱いので、今までX線や可視光、赤外線などの電磁波によ り観測できなかった領域、つまり、星の内部や星間物質などの多い場所、さらに は極初期宇宙からも散乱されずに我々に届く。よって、従来、電磁波での観測か らは得られなかった情報を得ることが出来る。

具体的には、天体起源の重力波からは中性子星の内部構造、超新星爆発のメ カニズムと発生頻度、ブラックホール近傍などの重力の強い領域での物理、初期 宇宙での星の形成率などが分かる。また、宇宙論起源の重力波からはインフレー ションの直接的検証、インフレーションモデルへの制限、宇宙ひもの存在の有無、 宇宙の再加熱のメカニズムなどが分かる。これ以外にも初期宇宙(高エネルギー 状態)での素粒子物理に関して何らかの知見が得られる可能性がある。

・重力波干渉計

今日、世界中の複数のグループが重力波検出器を建設し、実際に観測を行っ ている。現在の主流はレーザー干渉型の検出器であり、重力波が引き起こす時空 の歪みを Michelson 型干渉計で検出しようとするものである。2006年時点で稼 動しているものは、アメリカ合衆国の LIGO 、イタリア・フランスの VIRGO 、 ドイツの GEO600 、そして我が国、日本の TAMA300 である。10Hz〜10^4Hzの重 力波をターゲットにしており、検出器の大きさは数100m〜数kmである。さらに感 度を高めた将来計画も進行中であり、アメリカ合衆国の Advanced-LIGO や 日本 の LCGT がある。

その他にも宇宙空間に衛星を飛ばして重力波を検出しようとする計画もあり、 NASA と ESAが共同で進めている LISA 計画や日本の DECIGO 計画がある。これ らは地上の重力波干渉計よりもさらに低周波数の重力波をターゲットにしている。

・重力波の観測理論

重力の相互作用が非常に弱いという事は、逆に言えば観測が難しいという事 でもあり、重力波シグナルは検出器の雑音に比べ非常に小さい。例えるならば、 太陽 - 地球の距離が水素原子1個分変化する程度の変動をとらえようとしてい るのである。よって、重力波干渉計は精密測定装置でもあり、いかにして検出器 の雑音を減らすかが重要な問題となる。雑音を減らすためには検出器自体の雑音 を取り除くことはもちろんであるが、それ以外にもデータ解析や新たな検出方法 を用いるなど理論的アプローチにより飛躍的に感度を高めることも可能である。

このような観測理論の1つとして重力波干渉計における量子論がある。重力 波干渉計は精密測定装置であるので、真空場のゆらぎが雑音として寄与する。ま た、レーザー光の量子光学的効果も顕著に現れる。よって、量子論を用いる事に より従来は考えられていなかった現象を理解する事が出来、量子効果を応用する 事により検出器の感度を向上させる事が出来る。


京都大学大学院 人間・環境学研究科 宇宙論・重力グループ